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シクロデキストリンがアダマンタン誘導体を包接する向き

2018.8.24

βシクロデキストリンと最も相性のいいゲスト分子は?という問いに、多くの研究者はアダマンタンと答えるだろう。事実、βシクロデキストリンとアダマンタンのホストゲスト相互作用を利用した超分子素材が、多分野において開発されている。しかし、βシクロデキストリンとアダマンタン誘導体の相互作用様式を詳細に調べた研究は、意外にも少ない。Schönbeck は、adamantane-1-carboxylate (アニオン性) および 1-adamantyl ammonium (カチオン性) 2 種類のアダマンタン誘導体を用いて、βシクロデキストリンおよびその誘導体との相互作用様式を解析した。1-adamantyl ammonium の場合、アンモニウム基は βシクロデキストリン空洞に包接されず、空洞の広い方 (2 級側) からはみ出た包接様式を示した。一方、adamantane-1-carboxylate の場合、カルボキシル基が、βシクロデキストリン空洞の広い方 (2 級側) のみならず、狭い方 (1 級側) にも位置し、2 パターンの包接様式が存在することが示唆された。すなわち、アダマンタン誘導体の官能基の違いにより、βシクロデキストリンの包接様式も異なることが明らかとなった。なお、各種 βシクロデキストリン誘導体 (ジメチル体、トリメチル体) で大きな差異は見られなかった。

 

参考論文

Charge Determines Guest Orientation: A Combined NMR and Molecular Dynamics Study of β-Cyclodextrins and Adamantane Derivatives.

Christian Schönbeck

Department of Science and Environment, Roskilde University, Denmark

J. Phys. Chem. B, 122, 4821-4827 (2018).

持続放出および抗炎症活性の増強を有するメサラジン/ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン/キトサンナノ粒子

2018.8.22

この研究は、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-CD)包接複合体充填キトサン(CS)ナノ粒子(NP)を調製することにより、メサラジン(MSZ)の新たな持続放出システムを開発することを目的とした研究である。 HP-β-CD と MSZの複合体を1:1の割合で調製し、種々の分析技術を用いて特性を明らかにした。最適な条件下で調製されたHP-β-CD / MSZ / CS NPは、球状で(直径90±17nm)、細いサイズ分布、および高い充填効率を有していた。MSZ単体と比較して、HP-β-CD / MSZ / CS NPはMSZの有意な持続放出を示した。サイトカイン誘発炎症反応に対するナノ粒子の活性を、サイトカイン刺激HT-29細胞株を用いて、主要な炎症メディエーターをモニターすることで評価した。その結果は、MSZ単体と比較して、今回のナノ粒子がNO、PGE2、およびIL-8の産生をより強く阻害し、より良好な抗炎症効果を有することを示した。したがって、HP-β-CD / MSZ / CS NPは、MSZの有望な送達システムになる可能性がある。

参考論文
Mesalazine/hydroxypropyl-β-cyclodextrin/chitosan nanoparticles with sustained release and enhanced anti-inflammation activity.
Tang P1, Sun Q1, Zhao L1, Pu H1, Yang H1, Zhang S1, Gan R1, Gan N1, Li H2
1 School of Chemical Engineering, Sichuan University, Chengdu 610065, China.
2 School of Chemical Engineering, Sichuan University, Chengdu 610065, China. Electronic address: lihuilab@sina.com.
Carbohydrate Polymers 15 October 2018
Current Impact Factor of 4.811

SBE-β-CDが抗真菌薬のポサコナゾールのバイオアベイラビリティを改善

2018.8.21

ポサコナゾール(PCZ)は、トリアゾール系の経口抗真菌薬で、作用機序は他のアゾール系と同じくエルゴステロール合成阻害であるが、他のトリアゾール系薬に比較して、より幅広い抗真菌活性を有する。特筆すべきは、他のアゾール系抗真菌薬が無効な接合菌に対しても抗真菌活性を有している点であり、白血病患者の化学療法中の好中球減少時の侵襲性深在性真菌症の予防投与などに有効であるとされる。しかしながら、溶解度が著しく低いことやバイオアベイラビリティが低いことが問題となっている。そこで、本研究では、PCZをスルホブチルエーテルβシクロデキストリン(SBE-β-CD)により包接させることで上記問題点の改善を目指した。PCZ単独およびPCZ/ SBE-β-CD複合体のCmax値は、それぞれ0.565±0.102 μg/mL および1.12±0.091 μg/mL、AUC0t 値は、12.2±2.5 μg・h/mLおよび 19.9±2.5 μg・h/mL、 AUC0 値は、16.4±3.2 μg・h/mL および 25.0±3.5 μg・h/mL であった。

 以上のことから、SBE-β-CDは、PCZを包接することにより、PCZのバイオアベイラビリティを顕著に改善した。

 

参考文献

In vitro and in vivo evaluation of a posaconazole‐sulfobutyl ether‐β‐cyclodextrin inclusion complex

M. Wang1,2, J. Jiang2, Y. Cai2, M. Zhao2, Q. Wu1, Y. Cui1, C. Zhao2

1 Lizhu Group Lizhu Medicinal Research Institute, Zhuhai, Guangdong Province, China.

2 School of Pharmacy, Shenyang Pharmaceutical University, Shenyang, Liaoning Province, China.

Biomed. Chromatogr. doi: 10.1002/bmc.4364. (2018)

Current Impact Factor of 1.688 (2017 Journal Citation Reports)

シクロデキストリンの動きを on-off 制御できるロタキサン

2018.8.10

ロタキサンやポリロタキサン中のシクロデキストリンは、軸分子沿ってスライドリングできたり、回転できたりするため、ロタキサンやポリロタキサンを用いた機能性トポロジカル素材の開発が活発に行われている。最近 Zhang らは、αシクロデキストリン 2 分子からなる擬ロタキサンの両末端を 2-formylphenylboronic acid でキャップし、[3]ロタキサンを one-pot で得た。興味深いことに、キャップ部位のボロン酸は、隣接する αシクロデキストリンとボロン酸エステルを形成し、αシクロデキストリンの動きを止めた。一方で、ボロン酸エステルを切断する化学物質を添加すると、αシクロデキストリンが可動となった。すなわち、ロタキサン中のシクロデキストリンの動きを on-off 制御することに成功した。本技術は、分子マシンや分子スイッチ等を構築する上で有益であろう。

 

参考論文

Cyclodextrin Rotaxane with Switchable Pirouetting.

Qi-Wei Zhang et al.

Department of Chemistry and Biochemistry, University of Notre Dame, USA

Org. Lett., 20, 2096-2099 (2018).

“多”刺激応答的シクロデキストリン誘導体

2018.8.8

シクロデキストリンを利用したドラッグデリバリーシステム(DDS)において、刺激応答的な包接や放出が望まれている。そこで筆者らは、様々な刺激に応答し物性が変化するシクロデキストリン誘導体を合成した。具体的には、チオール基を介して複数のオリゴエチレングリコールをシクロデキストリンに導入した。このオリゴエチレングリコール修飾シクロデキストリンは、相転移温度よりも高い温度では、オリゴエチレングリコールが凝集し、シクロデキストリンの包接能力が下がることで、ゲスト分子を放出する。一方、相転移温度よりも低い場合、オリゴエチレングリコールが分散し、ゲスト分子を包接しやすい状態になる。さらに、還元環境において、より親水性が増加することや金属イオンの添加により包接力が増加するという特徴を有する。

以上のように、チオール基介在性オリゴエチレングリコール修飾シクロデキストリンは、温度や酸化還元、金属イオンの添加により物性を変化させる”多”刺激応答のシクロデキストリンとして、DDSへの応用が期待される。

 

参考文献

OEGylated Cyclodextrins Responsive to Temperature, Redox, and Metal Ions

R. Zhu1, A. Qian1, J. Yan1, W. Li1,2, K. Liu1, T. Masuda1, A. Zhang1

1Department of Polymer Materials, College of Materials Science and Engineering, Shanghai University

2School of Engineering and Applied Sciences, Harvard University

ACS Appl. Mater. Interfaces, 10, 13258-13263, 2018

Current Impact Factor of 8.097 (2017 Journal Citation Reports)

事実上不溶性の薬物の経角膜透過を促進するためのβ-シクロデキストリン統合ミセル分散液の最適化

2018.8.7

現在、抗真菌薬の効率的な眼内薬物送達システムの開発は、広範に広がっている眼の真菌感染に立ち向かい根絶する。トリアゾール抗真菌剤であるイトラコナゾールは、角膜に浸透しその後その有効性は制限される。この研究の目的は、溶解および浸透増強剤として作用するβ-シクロデキストリンの存在下において最小量の界面活性剤を利用することでイトコナゾールの角膜浸透を増強させることである。界面活性剤の組成を選択するための最初のスクリーニングの後にβ-シクロデキストリン統合ミセル分散液(CCMD)を調製した。調整は改良された溶融分散技術によって行なわれた。調製したCCMDはそれらの粒子サイズ、ゼータ電位および可溶化効率によって特性が明らかになった。最適な処方は、要因反応表面解析及基づいて選択され、17:1 界面活性剤:薬物、30:1シクロデキストリン:薬物比及び0.02%ポリエチレンオキシドで構成されていた。この処方はインビトロにおいて放出、透過型電子顕微鏡による画像化、粘膜接着、安定性を含めて特徴付けされ加えて、最小阻止濃度を決定した。さらに、生体外/生体内透過、安全性および有効性プロファイルを決定した。最適化されたCCMD処方は、ウサギの角膜試験から有意に安全で、安定で、粘膜接着性であり、浸透するのに効率的であることが見出された。結果として、最適化されたCCMD製剤は有望で安全であり、大部分の抗真菌薬を含む親油性薬物の経角膜送達のための効率的なプラットフォームとなりうる。

参考論文
Optimization of β-Cyclodextrin Consolidated Micellar Dispersion for Promoting the Transcorneal Permeation of a Practically Insoluble Drug.
Sayed S1, Elsayed I2, Ismail MM3.
1 Department of Pharmaceutics and Industrial Pharmacy, Faculty of Pharmacy, Cairo University, Cairo, Egypt.
2 Department of Pharmaceutics and Industrial Pharmacy, Faculty of Pharmacy, Cairo University, Cairo, Egypt; Department of Pharmaceutical Sciences, College of Pharmacy, Gulf Medical University, United Arab Emirates. Electronic address: ibrahim.elsayed@pharma.cu.edu.eg.
3 Department of Microbiology and Immunology, Faculty of Pharmacy, Cairo University, Cairo, Egypt.
International Journal of Pharmaceutics October 2018
Current Impact Factor of 3.649

分子と分子の情報伝達:刺激が次々に伝達されて色素を放出するスマートキャリア

2018.8.3

情報を正確に伝えるということは、非常に難しいものだ。高等生物である人間同士ですら、正確に情報伝達することに悩まされる。Llopis-Lorente らは最近、分子間同士で次々と情報伝達し、最終的なアウトプットとして、色素を放出するスマートキャリアの構築を行った。具体的には、グルコース脱水素酵素を修飾した金ナノ粒子と色素を封入したメソポーラスシリカのハイブリッドキャリアを構築した。このメソポーラスシリカの表面には、カチオン性の疎水性官能基を修飾し、さらにシクロデキストリンを包接させることで蓋をした。これにより、シリカ粒子内に色素が閉じ込められた。興味深いことに、本ハイブリットキャリアにグルコースと NAD+ を添加すると、グルコース脱水素酵素によりグルクロン酸が産生され、周辺が酸性環境に転じた。続いて、シリカ粒子表面の疎水性官能基がイオン化し、親水性となる結果、シクロデキストリンが解離し、色素を放出した。すなわち、グルコース→酸性→イオン化→シクロデキストリンの解離→色素放出と、分子間で情報伝達が行われた。本技術は、分子マシン、分子センサー、分子スイッチ等を構築する上で有益であろう。

 

参考論文

Hybrid Mesoporous Nanocarriers Act by Processing Logic Tasks: Toward the Design of Nanobots Capable of Reading Information from the Environment.

Antoni Llopis-Lorente et al.

Instituto de Reconocimiento Molecular y Desarrollo Tecnológico (IDM), Spain

ACS Appl. Mater. Interfaces, in press (2018).

コナガに対するアベルメクチンの殺虫活性を増強するための、シクロデキストリン固着中空メソポーラスシリカに基づくα-アミラーゼ誘発担体

2018.8.1

キャッピング分子としてα-CDを用いたα-シクロデキストリン(α-CD)固定中空メソポーラスシリカ(HMS)に基づいて、アベルメクチン(AVM)の制御放出用のα-アミラーゼ誘発担体を調製した。 異なる温度、pH、およびα-アミラーゼの存在下または非存在下でAVMの放出について調べた。その結果、AVMカプセル化制御放出製剤(AVM-CRF)は、劇的な酵素依存性やカプセル化効率が38%に達し、堅調なUVおよび熱遮蔽能力を有することが明らかになった。 AVM-CRFの生物活性調査は、コナガ幼虫に対する優れた毒性学的特性を示し、これはα-CDキャップがin vivoで酵素的にキャップされず、AVMを放出し、コナガ幼虫の死を誘導することを確認した。 AVM-CRFは、83.33%の死亡率を伴って14日目まで0.6mg/LのAVMを生物学的活性を保っていた、これはAVM市販製剤で処理したものよりも40%高かった。この試験は、農薬の減量適用の理論的基礎を提供する。
参考論文
α-Amylase triggered carriers based on cyclodextrin anchored hollow mesoporous silica for enhancing insecticidal activity of avermectin against Plutella xylostella
Kaziem AE1, Gao Y2, Zhang Y2, Qin X2, Xiao Y2, Zhang Y2, You H2, Li J2, He S3.
1 Hubei Insect Resources Utilization and Sustainable Pest Management Key Laboratory, College of Plant Science and Technology, Huazhong Agricultural University, Wuhan 430070, China; Department of Environmental Agricultural Science, Institute of Environmental Studies and Research, Ain Shams University, Cairo 11566, Egypt.
2 Hubei Insect Resources Utilization and Sustainable Pest Management Key Laboratory, College of Plant Science and Technology, Huazhong Agricultural University, Wuhan 430070, China.
3 Hubei Insect Resources Utilization and Sustainable Pest Management Key Laboratory, College of Plant Science and Technology, Huazhong Agricultural University, Wuhan 430070, China. Electronic address: heshun@mail.hzau.edu.cn.
J Hazard Mater. 2018 Jul 20
Current Impact Factor of 6.065

β-シクロデキストリンを活用した低コレステロールチーズの開発

2018.7.31

乳製品は一般に健康的な食品のイメージだが、バターやチーズのような高脂肪製品は例外である。また、WHOは、冠動脈心疾患のリスク軽減のため、飽和脂肪酸やコレステロールの摂取を減らすよう消費者に呼びかけている。これらを受け、低コレステロール製品の開発が盛んになっている。食品会社は、コレステロール低減のために、様々な手法を開発してきたが、多くの方法でコレステロールのみならず、フレーバーや栄養素まで取り除かれてしまう。さらに設備投資などコスト面にも課題がある。

本研究では、β-シクロデキストリンを活用し、チーズのコレステロール低減を試みた。スペインチーズの代表格である雌ヒツジのミルクから作られるマンチェゴチーズは、他のチーズと比較して、脂肪が50%以上も豊富であり、特徴的なシャープなフレーバーを有する。

結果は、約97.6%のコレステロールの低減が観察された。さらに、他の脂質や短鎖脂肪酸、フレーバーなどにはほとんど影響を与えなかった。以上のことから、β-シクロデキストリンによるコレステロール低減効果は、低コレステロール製品の開発において大きく貢献する可能性がある。

 

参考文献

Effect of Beta Cyclodextrin on the Reduction of Cholesterol in Ewe’s Milk Manchego Cheese

L. Alonso1, P. F. Fox2, M. V. Calvo3, J. Fontecha3

1Instituto de Productos Lácteos de Asturias (CSIC), Paseo Río Linares s/n. 33300 Villaviciosa, Asturias, Spain

2School of Food and Nutritional Sciences, University College Cork (UCC), T12 Y337 Cork, Ireland

3Instituto de Investigación en Ciencias de la Alimentación (CSIC-UAM), 28049 Madrid, Spain

Molecules, 23, 1789, 2018

Current Impact Factor of 3.098 (2017 Journal Citation Reports)

酵素を用いてスカスカなポリロタキサンを合成することに成功!!そして、スライドリングゲルを構築すると、よく伸び、速やかに変形・回復する素材ができた。

2018.7.27

東京大学 伊藤耕三教授らのグループが開発したスライドリングゲルは、ポリロタキサンを架橋して得られるゲルであり、架橋点が可動である。本ゲルは、今や我が国が誇る次世代の素材として大変注目を集めている。本ゲルの特徴として、驚異の伸縮性が挙げられるが、この伸縮性を付与する上で必要となるのが、スカスカなポリロタキサンである。スカスカであると、ポリロタキサン中のシクロデキストリンの可動距離が増えるため、驚異の伸縮性を示すゲルが構築できる。しかし、スカスカのポリロタキサンを合成することは至難の業である。最近、同グループは、トランスグルタミナーゼによる酵素反応を利用してエンドキャップ反応を施し、スカスカなポリロタキサンを得ることに成功した。ヒドロキシプロピルαシクロデキストリンと両末端がアミノ化されたポリエチレングリコールを溶解し、アミノ酸残基を有するエンドキャップとトランスグルタミナーゼを加えた。本反応は、従来と異なり、溶液系で行われる。結果として、シクロデキストリンの被覆率がわずか 2% 程度のスカスカなポリロタキサンが、one-pot かつ 90% の高収率で得られた。本ポリロタキサンを用いて、スライドリングゲルを構築すると、約1600%まで延伸し、速やかに元の形に回復した。しかも、本ゲルは非常に強靭であった。本検討により、安価で高機能・高品質なスライドリングの開発が期待できる。

 

参考論文

Highly Stretchable and Instantly Recoverable Slide-Ring Gels Consisting of Enzymatically Synthesized Polyrotaxane with Low Host Coverage.

Lan Jiang et al.

Graduate School of Frontier Sciences, The University of Tokyo, Japan

Chem. Mater., in press (2018).

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