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アダマンタンと β-シクロデキストリンの超分子学的相互作用を利用したタンパク質へのアプタマー修飾

2018.5.25

近年、標的細胞選択的に薬物をデリバリーする際のリガンドとして、アプタマーが汎用されている。しかし、アプタマーと薬物の相互作用は弱く、化学修飾が必要になる一方で、アプタマー修飾により、薬物の活性の低下も懸念される。Jiang らは、モデルタンパク質の GFP にゲスト分子であるアダマンタンを、アプタマーにホスト分子の βシクロデキストリンを修飾し、ホスト-ゲスト相互作用を介して GFP にアプタマーを可逆的に修飾した。本技術によりアプタマーを修飾した GFP は、効率よく細胞内に取り込まれた。本報告では、in vitro しか研究が行われていないものの、本技術は薬物にアプタマーを修飾する際に有用な技術になり得る。

 

参考論文

Supramolecularly Engineered Circular Bivalent Aptamer for Enhanced Functional Protein Delivery.

Ying Jiang et al.

Hunan University, China

J. Am. Chem. Soc. in press (2018).

Current Impact Factor of 13.858 (2017 Journal Citation Reports)

ポリロタキサンに基づくβ-シクロデキストリンの全身デリバリーはニーマンピック病の治療効率を増強させる

2018.5.23

ニーマンピック病C型 (NPC)はコレステロールのリソソーム内への蓄積に特徴付けられる致死的な代謝性疾患である。HP-β-CDはニーマンピックC型モデル動物においてコレステロールの排泄促進や延命効果を示すにも関わらず、極度に高い濃度が必要である。筆者らはNPCにおいてβ-CDの治療効率を増強させるために、ポリマーチェインに沿って複数β-CDが連なり、酸性で切断可能なストッパー分子によってキャッピングされた酸分解性ポリロタキサンを開発した。酸分解性ポリロタキサンは酸性のリソソームの下解離し、リソソーム内にβ-CD群を放出することでHP-β-CDよりも低い濃度でNPCモデル細胞においてコレステロールの排泄を促進した。本研究ではポリロタキサンの治療効果についてNPCモデルマウスを用いて研究を行なった。毎週のポリロタキサン投与は以前報告されていたHP-β-CDに比べて500mg/kgという低い濃度にもかかわらずマウスにおいて寿命を有意に延長させ、神経変性を抑制した。詳細な組織コレステロールの分析によりポリロタキサンによる治療はNPCモデルマウスにおいて顕著にコレステロールの組織蓄積を抑止したが健常マウスにおいてはコレステロール量を変化させなかった。従って酸分解性ポリロタキサンはNPCの治療においてβ-CDの効力を増強させるための有望な候補である。

参考論文
Polyrotaxane-based systemic delivery of β-cyclodextrins for potentiatingtherapeutic efficacy in a mouse model of Niemann-Pick type C disease
Tamura A1, Yui N2.
1 Department of Organic Biomaterials, Institute of Biomaterials and Bioengineering, Tokyo Medical and Dental University (TMDU), 2-3-10 Kanda-Surugadai, Chiyoda, Tokyo 101-0062, Japan.
2 Department of Organic Biomaterials, Institute of Biomaterials and Bioengineering, Tokyo Medical and Dental University (TMDU), 2-3-10 Kanda-Surugadai, Chiyoda, Tokyo 101-0062, Japan.
Journal of Controlled Release. 2018 Jan 10;269:148-158
Current Impact Factor of 7.786 (2017 Journal Citation Reports)

ポリシクロデキストリンにより架橋された自己修復超分子ハイドロゲル

2018.5.22

筆者らは、ポリβ-シクロデキストリン(PCD)、アダマンタン(Ad)およびアクリルアミド(AAc)を用いて、新規超分子ハイドロゲル(PCD-Ad ハイドロゲル)を調製した。本PCD-Ad ハイドロゲルは、PCDとAdのホスト-ゲスト相互作用を利用し架橋することで、自己修復能および形状記憶能を有する。

実際、本PCD-Ad ハイドロゲルの自己修復能は、70℃、湿潤条件で、120分後に70%に到達した。この値は、過去の報告でポリマー化していないCDとAdにより調製されたハイドロゲルの値(~45%)より高かった。また、本PCD-Ad ハイドロゲルにFe3+を添加することにより、Fe3+とAAcのカルボキシ基が可逆的な架橋を形成し、形状記憶能を示した。

以上のように、PCD-Ad ハイドロゲルは、自己修復能および形状記憶能を有する新規超分子ハイドロゲルであることが示された。今後PCD-Ad ハイドロゲルは、自己修復コーティング材料やソフトアクチェーター材料としての応用が期待される。

参考論文

Self-healable tough supramolecular hydrogels crosslinked by poly-cyclodextrin through host-guest interaction.

T. Caia, S. Huoa, T. Wanga, W. Suna, Z. Tonga,b

Carbohydr. Polym., 193, (2018), (54-61).

Current Impact Factor of 4.811 (2017 Journal Citation Reports)

メチル-β-シクロデキストリンはAMPKの活性化を介してNPC細胞におけるオートファジーの一連の流れを回復させる

2018.5.21

2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPβCD)は、Niemann-Pick病C型(NPC)細胞のリソソーム中のコレステロールの蓄積を減少させることから、現在、米国において、臨床試験が実施されている。しかしながら、NPC細胞において、HPβCDがどのような機構でコレステロール蓄積を減少させるかは明らかでなく、その分子標的も不明である。著者らは、コレステロールとの相互作用が強いため、脂質ラフト阻害剤として汎用されている親水性シクロデキストリン誘導体であるメチル-β-シクロデキストリン(MβCD)が、Niemann-Pick病C1型(NPC1)細胞のマクロオートファジー/オートファジーフラックスの障害を回復させることを見出した。この作用は、MβCDがオートファジー経路における上流キナーゼであるAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)のβ-サブユニットへ結合することで、AMPKを直接活性化することにより誘導されることが示された。AMPKβ1またはβ2サブユニットをコードするPRKAB1またはPRKAB2発現のノックダウンおよびAMPK阻害剤は、NPC1細胞におけるMβCDのコレステロール蓄積に対する減少効果を消失させた。これらの結果は、AMPKがMβCDの分子標的であり、その活性化がオートファジーの一連の流れを増強し、それによってNPC1細胞におけるコレステロール蓄積を減少させること、また、AMPKがNPC治療薬の開発において魅力的な標的であることを示すものである。

参考論文

Methyl-β-cyclodextrin restores impaired autophagy flux in Niemann-Pick C1-deficient cells through activation of AMPK

Dai S et al.

National Center for Advancing Translational Sciences (NCATS), NIH , Bethesda , MD , USA.

Sir Run Run Shaw Hospital , Zhejiang University School of Medicine , Hangzhou , China.

Autophagy. 13(8):1435-1451 (2017).

Current Impact Factor of 8.593 (2017 Journal Citation Reports)

タンパク質のための新規 pH 応答型制御放出キャリア:メチル-β-シクロデキストリンポリロタキサンを基盤としたコアセルベート

2018.5.18

最近西田らは、メチルβシクロデキストリンから成るポリロタキサンが、LCST 以上の温度でコアセルベートを形成すること利用して、タンパク質デリバリーキャリアを構築した。ポリロタキサン中には酸性で分解される結合様式を導入し、酸性条件下でタンパク質を放出する工夫を施した。本コアセルベートには、アルブミン、リゾチーム、βガラクトシダーゼなど、種々のタンパク質を封入可能であった。また、コアセルベートからのタンパク質の放出は、中性 (pH 7.4) よりも酸性 (pH 5.0) において増大した。さらに、アルブミン封入コアセルベートを皮下投与すると、アルブミン単独に比べ、投与部位における滞留性が著しく増大した。このように、メチルβシクロデキストリンポリロタキサンから成るコアセルベートは、新規タンパク質キャリアとして有用であることが示唆された。

 

参考論文

pH-Responsive Coacervate Droplets Formed from Acid-Labile Methylated Polyrotaxanes as an Injectable Protein Carrier.

Kei Nishida et al.

Department of Organic Biomaterials, Institute of Biomaterials and Bioengineering, Tokyo Medical and Dental University

Biomacromolecules, in press (2018).

Current Impact Factor of 5.246 (2017 Journal Citation Reports)

眼の難病クリスタリン網膜症の治療薬候補としてメチル-β-シクロデキストリンが発見された

2018.5.17

クリスタリン網膜症は、日本人に多い遺伝性網膜変性疾患であり、病初期には網膜色素上皮細胞が障害され、その後2次的に視細胞障害が生じて網膜変性が進行することで最終的に失明に至ると考えられています。クリスタリン網膜症の原因遺伝子は、チトクロームP450CYP4V2であると報告されていましたが、その病態は全く分かっていませんでした。本研究グループは、疾患特異的iPS細胞を用いて、患者由来の網膜色素上皮細胞を得ることで、試験管内での疾患モデルの作成に成功しました。患者由来の網膜色素上皮細胞では、空胞形成を伴う細胞変性が生じており、その結果、細胞死が引き起こされていました。また、患者由来の網膜色素上皮細胞に対して、網羅的脂質解析を用いることで、細胞内の遊離コレステロール蓄積がリソソーム機能障害を介して細胞変性・細胞死を引き起こしていることが明らかとなりました。更に、メチル-β-シクロデキストリンは、網膜色素上皮細胞内の遊離コレステロール蓄積を阻害することで、クリスタリン網膜症の病態を改善させることが示されました。

参考論文

Reduction of lipid accumulation rescues Bietti’s crystalline dystrophy phenotypes.

Hata M, Ikeda HO, Iwai S, Iida Y, Gotoh N, Asaka I, Ikeda K, Isobe Y, Hori A, Nakagawa S, Yamato S, Arita M, Yoshimura N, Tsujikawa A.

Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 2018, 115(15):3936-3941.

αシクロデキストリンを摂取することは腸内細菌叢を変化させ、脂肪の蓄積を減少させる.

2018.5.16

マウスを3つの食事制限グループ (普通食を摂食させるグループ、高脂肪食を摂取させるグループ及び高脂肪食を摂取させさらにαシクロデキストリンを摂取させるグループ)に分けて16週間実験を行なった。結果、高脂肪食を摂取させたグループで体重及び精巣上体脂肪組織の重量は普通食を摂取させるグループに比べて増加していた、高脂肪食を摂取させさらにαシクロデキストリンを摂取させたグループは高脂肪食のみを摂取させたグループと比べて体重及び精巣上体脂肪組織の重量増加は小さかった。また高脂肪食摂取により減少した腸内細菌叢内のバクテリア、バクテロイデス、ビフィズス菌やラクトバチルスの数をαシクロデキストリンを摂取することで増加させた。重要なことにαシクロデキストリンを摂取することで盲腸内の乳酸や酢酸、プロピオン酸のような短鎖脂肪酸やブタン酸の濃度を上昇させグルコース濃度を減少させた。さらに、αシクロデキストリンを摂取することで脂肪組織での脂肪細胞の分化に関わるPPARγやエネルギー消費に関わるPPARαの遺伝子発現を増加させ、脂肪酸やトリグリセライド合成に関わるステロール調節エレメント結合タンパク質を減少させた。αシクロデキストリンは脂質代謝に関与する遺伝子の発現を調節することで腸内細菌叢を変えたり、乳酸や短鎖脂肪酸の産生を増加させることで肥満抑制効果をもたらすことが示唆された。

参考論文

Dietary α-cyclodextrin modifies gut microbiota and reduces fat accumulation in high-fat-diet-fed obese mice.
Nihei N1, Okamoto H1,2, Furune T1, Ikuta N2, Sasaki K3, Rimbach G4, Yoshikawa Y5, Terao K1,2.
1 CycloChem Bio Co., Ltd, Chuo-ku, Kobe, Hyogo, Japan.
2 Division of Food and Drug Evaluation Science, Graduate School of Medicine, Kobe University, Chuo-ku, Kobe, Hyogo, Japan.
3 Graduate School of Science, Technology and Innovation, Kobe University, Nada-ku, Kobe, Hyogo, Japan.
4 Division of Food Science, Institute of Human Nutrition and Food Science, University of Kiel, Kiel, Germany.
5 Department of Health, Sports, and Nutrition, Faculty of Health and Welfare, Kobe Women’s University, Chuo-ku, Kobe, Hyogo, Japan.

Biofactors. 2018 May 7. doi: 10.1002/biof.1429
Current Impact Factor of 3.236 (2017 Journal Citation Reports)

β-シクロデキストリンとニガウリジュースを混合することでニガウリの苦みを軽減し、本混合体は抗糖尿病効果を有する可能性が示された。

2018.5.15

ニガウリの抽出物であるトリペルテン配糖体であるモモルジコシドKおよびLは、栄養価が高いことや抗糖尿病活性を有することが知られている。一方、モモルジコシドKおよびLは苦みが強いため、ニガウリの人気は低い。

そこで、ニガウリジュースにβ-シクロデキストリン(β-CyD)を添加し、18歳から40歳男女を対象に官能試験を実施した。香りおよび味において、ニガウリジュース単独(β-CyD添加無し)と比較して、2%β-CyD含有ニガウリジュースのスコアがそれぞれ6.8から7.5および4.7から7.7に上昇した。

また、2%β-CyD含有ニガウリジュースは、ニガウリジュース単独(β-CyD添加無し)と比較して、α-アミラーゼ阻害活性およびα-グルコシダーゼ阻害活性を有為に減少させた。したがって、2%β-CyD含有ニガウリジュースは、抗糖尿病効果を有する可能性が示された。これは、β-CyDの包接効果による、モモルジコシド類のバイオアベイラビリティの向上およびβ-CyD自体のα-アミラーゼの阻害効果が寄与したことが考えられる。

以上のように、β-シクロデキストリンとニガウリジュースを混合することでニガウリの苦みを軽減し、本混合体は抗糖尿病効果を有する可能性が示された。

参考論文

Debittering of bitter gourd juice using β-cyclodextrin: Mechanism and effect on antidiabetic potential

S. Deshaware1, S. Gupta2, R. S. Singhal1, M. Joshi3, P. S. Variyar2

a Department of Food Engineering and Technology, Institute of Chemical Technology, Mumbai 400019, India

b Food Technology Division, Bhabha Atomic Research Centre, Mumbai 400085, India

c National Facility for High-field NMR, Tata Institute of Fundamental Research, Mumbai 400005, India

Food Chem., 262, (2018), (78-85).

Current Impact Factor of 4.529 (2017 Journal Citation Reports)

α-シクロデキストリンを摂取すると腸内細菌叢の環境を変えて、アテローム性動脈硬化症を軽減する。

2018.5.14

α-シクロデキストリン(α-CD)は、動物およびヒトにおいて血漿コレステロールを低下させることが知られているが、アテローム性動脈硬化症に対するその効果は知られていない。

アポEノックアウトマウスに、低脂肪食(LFD; 5.2%脂肪、w / w)またはウエスタン高脂肪食に添加なし(WD)、1.5% α-CDを含有(21.2% 脂肪)(WDA); 1.5% β-CD(WDB)を含有、または1.5% オリゴフルクトース強化イヌリン(WDI)を含有餌を11週投与したところ、大動脈アテローム性動脈硬化症病変は、WD(添加剤なし)と比較してWDマウス(α-CD含有)の方が65%少なく(P <0.05)、LFDと同様であった。他のWD補給食(β-CDまたはオリゴフルクトース強化イヌリン)ではアテローム性動脈硬化症に対する効果は認められなかった。一方、16S rRNAのRNA-seq分析により、WDにα-CDを添加すると、盲腸の細菌数が有意に減少した。また、WDにα-CDを添加すると、ClostridiumおよびTuricibacteriumが減少し、Dehalobacteriaceaeが有意に増加した。Family(科)レベルでは、Comamonadaceae科は有意に増し、 Peptostreptococcaceae科は低下傾向を示した。これらの細菌数の変化のいくつかは、アテローム性動脈硬化症の病変と負に相関し、盲腸重量の増加および血漿コレステロールレベルの低下と関連していた。以上のことから、アポEノックアウトマウスにおいて高脂肪食へのα-CDの添加は、アテローム性動脈硬化症を軽減し、それは腸内細菌叢の変化と関連することが示唆された。

参考論文

Dietary α-cyclodextrin reduces atherosclerosis and modifies gut flora in apolipoprotein E-deficient mice

Toshihiro Sakurai et al., Lipoprotein Metabolism Section, Cardio-Pulmonary Branch, National Heart, Lung, and Blood Institute, National Institutes of Health, Bethesda, MD, USA, Faculty of Health Sciences, Hokkaido University, Sapporo, Japan

Mol. Nutr. Food Res., 61, 8 (2017), (1-11) 1600804.

Current Impact Factor of 4.323 (2017 Journal Citation Reports)

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