東京大学 伊藤耕三教授らのグループが開発したスライドリングゲルは、ポリロタキサンを架橋して得られるゲルであり、架橋点が可動である。本ゲルは、今や我が国が誇る次世代の素材として大変注目を集めている。本ゲルの特徴として、驚異の伸縮性が挙げられるが、この伸縮性を付与する上で必要となるのが、スカスカなポリロタキサンである。スカスカであると、ポリロタキサン中のシクロデキストリンの可動距離が増えるため、驚異の伸縮性を示すゲルが構築できる。しかし、スカスカのポリロタキサンを合成することは至難の業である。最近、同グループは、トランスグルタミナーゼによる酵素反応を利用してエンドキャップ反応を施し、スカスカなポリロタキサンを得ることに成功した。ヒドロキシプロピル–α–シクロデキストリンと両末端がアミノ化されたポリエチレングリコールを溶解し、アミノ酸残基を有するエンドキャップとトランスグルタミナーゼを加えた。本反応は、従来と異なり、溶液系で行われる。結果として、シクロデキストリンの被覆率がわずか 2% 程度のスカスカなポリロタキサンが、one-pot かつ 90% の高収率で得られた。本ポリロタキサンを用いて、スライドリングゲルを構築すると、約1600%まで延伸し、速やかに元の形に回復した。しかも、本ゲルは非常に強靭であった。本検討により、安価で高機能・高品質なスライドリングの開発が期待できる。
参考論文
Highly Stretchable and Instantly Recoverable Slide-Ring Gels Consisting of Enzymatically Synthesized Polyrotaxane with Low Host Coverage.
Lan Jiang et al.
Graduate School of Frontier Sciences, The University of Tokyo, Japan
Chem. Mater., in press (2018).